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高松地方裁判所 平成5年(ワ)73号 判決 1996年9月30日

原告

大西徹

右訴訟代理人弁護士

渡辺光夫

宮崎浩二

小林正則

吉田茂

岡義博

西山司朗

古市修平

重哲郎

藤本邦人

山下照樹

井上昭雄

多羽本伊知郎

中村詩郎

右訴訟復代理人弁護士

白井一郎

被告

三洋証券株式会社

右代表者代表取締役

池内孝

右訴訟代理人弁護士

中筋一朗

荒尾幸三

種村泰一

益田哲生

爲近百合俊

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金二六二万九〇〇〇円及びこれに対する平成五年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の従業員の勧誘により被告との間で実母を代理して新株引受権証券(ワラント)の売買取引をした原告が、同取引は右従業員の違法な勧誘によるものであり、その結果、実母の購入した新株引受権証券は無価値となったところ、原告は実母との間で、原告の判断に基づく取引によって実母が損失が発生した場合は原告が実母に発生した損害を填補する旨約定しており、これに従って現実に損害を填補したので、被告に対する損害賠償請求権を取得したとして、被告に対し、民法七一五条に基づき、右填補に係る売買代金相当額(二三九万円)及び本訴提起に関する弁護士費用(二三万九〇〇〇円)について損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告は、有価証券の売買及びその媒介、取次、代理等を業として行う証券会社である。

2  原告は、かつて被告に証券外務員として勤務していたことがあり、被告を退職後、自らの資金で、また、実母大西秀子(以下「秀子」という。)から同人の資金運用を任されて同人名義で、証券取引を行っていた。被告の従業員である神田雄一(以下「神田」という。)は、原告の大学の後輩でもあったが、昭和六二年三月から被告の高松支店において証券外務員として原告が自己及び秀子名義で行う証券取引を担当していた。

3  昭和五六年の商法改正により発行が認められた新株引受権付社債は、別名ワラント債と称され、社債部分と新株引受権部分を一体として一枚の証券に表章した形で発行されるもの(非分離型)と、両部分を別々の証券に表章した形で発行されるもの(分離型)がある。わが国では、分離型のワラント債は昭和六〇年一一月一日に発行が解禁されたが、分離型においては、分離された新株引受権部分(新株引受権証券。以下「ワラント」という。)は独自の証券として流通が可能である。ワラントは、あらかじめ決められた一定数の株式を、一定の期間(権利行使期間)内に、一定の価格(権利行使価格)で引き受けることのできる権利であり、その取引価格は、理論価格(パリティ。株価と権利行使価格の差額に引き受けられる株式数を乗じた額)に株価上昇の期待値(プレミアム)を加算することにより求められる。ワラントの価格は株価に連動して変化するが、その価格変動は株式に比べて大きく、株価の数倍の変動が生じる(ギヤリング効果)。権利行使価格及び権利行使期間はワラント発行に際して予め決められており、権利行使期間を徒過すると新株引受権は失効し無価値となる。

4  原告は、神田の勧誘を受けて、平成二年一月一九日ころに被告から新日本製鉄ワラント(円建て、権利行使価格七三〇円、権利行使期間平成六年一月二五日まで)一〇ワラント(以下「本件ワラント」という。)を秀子を代理して代金二三九万円で買い付け、同月二四日に右代金を支払った(以下「本件取引」という。)。

5  秀子及びその代理人である原告は、本件ワラントを売却しないままであったところ、その権利行使期間が経過して、本件ワラントは無価値となった。

二  争点

本件の中心的争点は、原告が秀子の代理人として本件ワラントを購入するに際し神田が行った勧誘行為に違法が存するか、である。

1  原告の主張

(一) 適合性の原則違反

証券取引における自己責任の原則は、その大前提として、顧客が当該取引を自己の責任において行い得るだけの環境を必要とする。証券会社は、巨大な力と能力を有し、顧客に対して忠実義務と善管注意義務を負っているから、顧客が能力、経験、資力等において当該取引に適合するか否かを慎重にチェックしたうえで、適合する取引にのみ顧客を勧誘すべき注意義務を負うものというべきであって、この原則は、昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(投資者本位通達)並びに日本証券業協会(以下「協会」という。)制定の「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(公正慣習規則第九号)七条一項及び三条一項(平成三年八月一日施行の改正前のもの)において具体化されているところであるから、右適合性の原則に違反する勧誘行為には重大な違法性があるというべきである。

ところで、わが国においては、昭和六〇年一〇月までは大蔵省の指導及び協会の自主規制によりワラントの販売は禁じられていたが、その理由は、ワラントの価格変動が激しくなる可能性が強いこと、日本の証券市場ではワラントになじみがないことにあった。このため、流通市場における受入態勢が整備されるまではワラントは当分取り扱わないこととされていたのである。しかし、昭和六〇年一一月一日ワラントの発行が解禁された際には、未だ流通市場においてワラントの受入態勢が整備されたとはいい難い状況にあったにもかかわらず、証券市場の自由化といった一般投資者と関わりのない事情に基づき解禁が決定されてしまった。そして、ワラントは、ギヤリング効果にみられるように価格変動の大きいハイリスク商品であるのみならず、株価が権利行使価格とワラント購入コストの合計額を上回らないまま権利行使期限を迎えた場合には、実質上無価値となり、投資した金額全額が失われるという結果をもたらす商品である。このように、ワラント自体に多大な危険が内在すること及びワラントが流通市場における受入態勢が整っていないにもかかわらず解禁された商品であることに鑑みれば、ワラント取引については、独自に情報を収集する能力、経験及びリスクを負担できる資金力を有するプロの投資家及び機関投資家が自発的に取引を行う場合のみ適合性があり、一般投資家にはおよそ適合性がないというべきである。

原告が被告に証券外務員として勤務していたのは昭和五二年四月から昭和五四年三月までの二年間にすぎず、その後原告は証券取引に関係する仕事に従事したことはなく、商法改正により新株引受権付社債が新設されたのは原告が被告を退職した後である昭和五六年六月であるから、原告は、ワラントに関する知識は皆無であった。また、原告は自己名義及び秀子やその孫らの名義で被告と取引を行ってきたが、その投資傾向は手堅い安全なものであり、特に自己名義以外の取引においては安全な商品を選択する傾向が強かった。そして、神田は、被告の証券外務員として原告の取引を担当していたことから、右のような原告の投資傾向を熟知していたはずである。

以上の次第で、神田が、手堅い安全な投資をしていた一般投資家にすぎずワラントに関する知識が全くなかった原告に対し、ワラントの購入を勧誘した行為は、適合性の原則に違反する。

(二) 断定的判断の提供

証券会社は顧客に比べて隔絶した力と専門的知識・能力、豊富な情報網を有するから、証券会社が断定的判断を提供して顧客を特定銘柄の取引に勧誘するときは、もはや顧客自身の判断による取引は期待し得ない。したがって、証券取引法五〇条一項一号及び協会制定の「証券従業員に関する規則」(公正慣習規則第八号)九条三項一号は断定的判断を提供して勧誘することを禁止しているところであり、このような方法で勧誘が行われた場合には、自己責任の原則は適用できず、当該勧誘行為は高度の違法性を帯びることとなる。

神田は、本件ワラントについて、原告に対し、「銘柄が一流であり安全です。」「絶対儲かります。」「九分九厘大丈夫です。」「元本が保証される安全な社債のようなものです。」「短期間で値上りします。」「短期間で一年分の利子程度、けっこうとれます。」などの文言を述べて勧誘しており、これらはいずれも違法な断定的判断の提供に該当する。

(三) 説明・確認義務違反

証券会社が顧客に対して忠実義務と善管注意義務を負い、高度の専門的知識・経験、豊富な情報網を有しており、多くの一般投資家が証券会社の推奨、助言を信頼して証券市場に参入している現状の下では、投資家の証券会社に対する信頼が十分に保護されなければならない。また、顧客が当該商品の内容を十分に理解しないまま取引を行っている場合には、自己責任の原則の適用はその前提を欠くこととなる。したがって、証券会社は、顧客と取引を行うに当たり、信義則上、顧客の職業、年齢、財産状態、投資経験、投資目的等に照らして、顧客が当該取引の危険性について的確な認識を形成するに足りる情報を提供し、顧客がこれを理解したことを確認すべき注意義務を負うものというべきである。証券取引法、大蔵省令、同通達、協会制定の公正慣習規則は、右説明義務の存在を前提に投資家保護に関する規定を設けているが、証券会杜が右注意義務に違反して投資勧誘に及んだ場合は、右勧誘行為は私法上も違法なものとなるというべきである。ワラントは、商品構造が複雑で、高度の危険性を有し、周知性を欠くなど、その販売自体を疑問視せざるを得ないほどの問題点を有する商品であるから、一般投資家に対してワラントを販売する場合には、極めて慎重かつ具体的な説明・確認が行われるべきであり、中でも、①ワラントの意義、すなわちワラントが一定期間内に一定価格で一定数の新株を購入できる権利を有する証券であること、②当該ワラントの権利行使価格と権利行使による取得株式数、権利行使期間の意味、③ワラントの価格形成のメカニズム及びワラントが価格変動の激しいハイリスクな商品であり、権利行使期間を徒過すると無価値な紙屑になることすらあり得ることの三点は、特に重要である。

神田は、本件ワラントについて、原告に対し、右①ないし③のいずれも説明していないから、神田の勧誘行為には重大な違法がる。

(四) 虚偽の表示、誤解を生ぜしめる表示

本件取引当時における証券取引法五〇条一項五号及びこれを受けた証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号は、証券会社又はその役員若しくは使用人らが、証券取引に関し、虚偽の表示をし又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をすることを禁止しており、この禁止行為には、積極的な表示のほか、投資判断に重大な影響を及ぼす事項につき必要な表示を欠く不作為も含まれると解すべきであって、協会発行の「証券外務員必携1」にも、その旨が明記されており、これに違反して行われた勧誘行為はもはや詐欺行為にほかならない。ワラントは、前記のとおり周知性を欠くなどの問題点を有する商品であり、また、発行会社が上場企業である点で、他の上場商品と誤認混同されやすい性質をも有するから、証券会社の外務員が前記(三)の①ないし③に関する説明・確認をせずに勧誘することは、虚偽の表示又は誤解を生ぜしめるべき表示をして勧誘を行ったものと評価されるべきであり、このような勧誘は刑事罰にも値する悪質な行為というべきである。

神田は、原告に対し、本件ワラントについて前記(三)の①ないし③に関する説明・確認をしなかったばかりか、「銘柄が一流であり安全である。」「株のようなものである。」「ワラントといって転換社債や割引債のようなものである。元本が保証される安全な社債のようなものである。」「絶対儲かる。」「短期間で値上がりする。」「短期間で一年分の利子程度、けっこうとれる。」などと述べて勧誘を行っているから、虚偽の表示又は誤解を生ぜしめるべき表示をしたものというべきである。

2  被告の反論

(一) 適合性の原則違反について

(1) ワラントの商品性及びワラント取引と他の有価証券取引との異同

① ワラントの価格は原則として発行会社の株価の上下に連動して上下するため、ワラントの銘柄の選定や投資態度の決定等においては、将来株価が値上りするか否かを見極めることが重要な要素となるなどの点で、株式投資との類似性が認められる。また、ワラント取引においては、株式の現物取引に比べて、より少額の投資資金でより多くの利益を上げることが可能となる。

ワラント取引は、少額の資金で大きな株式投資ができること、決済期日があることなどの点で、株式の信用取引と類似している。そして、ワラント取引においては、信用取引と異なり、決済期日までに株価が大きく下がった場合に追加証拠金ないし追加担保を上積みして証券会社に払い込む必要はなく、投資家が当初の投資金額以上の損失を負担することはない。また、国内銘柄のワラントの権利行使期間は、四年ないし八年(通常は六年)であり、信用取引の決済期間が通常六か月であるのに比べると長期となっている。

転換社債は、株式に転換する権利(転換権)を与えられている社債であって、購入価格にかかわらず償還期日に額面で償還される点、新株を取得(転換)する際に新たな資金は不要である(ただし、新株取得により社債としての権利は消滅する。)点でワラントと異なっているが、新株を取得できる権利があること、その権利に行使期間があることなどの点でワラントと類似している。

確かにワラントは新しい投資商品であるが、以上のとおり他の投資商品と類似する点も認められるから、株式や転換社債への投資経験を有する者であれば、ワラントの商品性やリスクを理解し、その投資の是非について判断することは十分に可能である。

② ワラントは、少額の資金により投資が可能である点、リスクが投資金額に限定されている点、ギヤリング効果により株式以上の高い収益を享受することが可能な点、四年ないし八年という長期の権利行使期間を利用して時間的余裕と展望をもって投資に臨むことができる点にメリットがあり、投資の方法次第では投資家に大きな利益を与える商品であって、現にワラント市場が活況を呈していた時期には、恵まれた一部の投資家に限らず、一般の投資家もワラント取引により大きな利益を上げていたものである。

他方、ワラントには権利失効リスク及び価格変動リスクがあるが、これらは、ワラントが期限付きの商品であること、高い投資効率を有する商品であることから当然に生じる不可避的なものであって、ワラントを購入する投資家の予測できないものではない。

(2) 新株引受権付社債(ワラント)制度の創設、発展について

新株引受権付社債制度は、為替リスクをヘッジしたいという企業の要望から創設されたものであるが、昭和五二年の改正案公表から昭和五六年の商法改正による創設までの間に十分議論が尽くされており、その施行に当たっては制度の有用性に鑑み施行期日が早められたほどである。このような経過で制定された改正商法が、ワラントの発行及びワラントのみの譲渡を明文で認めているのであるから、ワラントが一般投資家への販売に適さない商品であるとする原告の主張はおよそ是認し難い。昭和五六年九月三〇日に協会がワラントの受入態勢が整備されるまでの経過措置として自主規制をする旨の理事会決議をしているけれども、その後、わが国企業は海外でワラントを活発に発行し、昭和六〇年度には九一件、八五〇〇億円ものワラントが発行されるに及んだため、協会は、流通市場の受入環境が整備されつつあること及び金融・資本市場の国際化が進展していること等に鑑み、昭和六〇年一一月一日、国内ワラントについて右理事会決議を廃止した(外貨建てワラントについては昭和六一年一月一日に廃止)。したがって、ワラントが不当に解禁されたという原告の批判は全く当たらない。

(3) 説明書、確認書について

協会は、平成元年四月一九日、理事会決議により、外貨建てワラント取引に際して証券会社から顧客に対して説明書を交付すること及び顧客の判断と責任において取引を行う旨の「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求することを定めた。さらに、協会は、平成二年三月一六日、「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(公正慣習規則第九号)を改正し、証券会社がワラント取引に係る契約を締結しようとするときは協会が作成する説明書を顧客に交付し、かつ、顧客から確認書を徴求することを定めた。

ワラント取引に関して説明書を交付すべきことは、右のとおり協会の自主的な決議、規則として定められたものにすぎず、債券先物取引や株式指数先物取引のように証券取引法上説明書の交付が義務付けられているわけではない。このような経緯に照らしても、ワラント取引が債券先物取引や株式指数先物取引に照らして一般的に危険性が少ないものであることは明らかである。

(4) 原告の属性

原告は、被告に勤務し、研修を受け、証券取引の外務員試験に合格した経歴を有し、被告の京都支店及び田辺支店において顧客を担当し、株式、転換社債、投資信託といった商品の購入を勧誘しており、株式や転換社債については十分に理解していた。そして、原告は昭和五六年に被告との取引を開始して以来、現物株の取引については確固たる見識に基づき自ら被告担当社員に売買の指示をして取引を行っており、現物株以外の商品については、被告担当社員から勧誘を受けた際、必ず被告高松支店に来店して当該商品に関する質問をし、説明を受けたうえで納得してから取引を行っており、定型的な商品であっても利率を詳細に尋ねたうえで取引をしている。また、原告は、自らの判断で株式取引を行っており、その判断材料を、日本経済新聞(以下「日経新聞」という。)の株式の売買欄及び企業の業績及び商品につき記載のある欄から得ていた。さらに、原告は、自分名義の取引については儲けて売って利益を得ることを目的にしており、「何か儲かるものはないか。」「株以外で何か儲かるものを持っておいで。」などと神田に言っていたものである。のみならず、原告は、秀子から資金運用を委ねられて行っていた同人名義の取引では、資金を高率で回すことを目的としており、同人名義で転換社債の買付をした際にも利鞘を稼ぐ目的で短期売買を行っている。なお、原告は、年間三〇〇〇円の株式の保管料を節約する目的で、株式を買い付けるとその都度出庫しており、金銭的には極めてシビアかつ慎重であった。

(5) 結論

以上の次第で、原告は証券取引のプロと目されるべき人物であり、自己責任の原則が強く妥当する投資家であるから、神田が原告に対しワラント取引を勧誘したことは、適合性の原則に違反しない。

(二) 断定的判断の提供について

(1) 本件取引の経過

神田は、本件ワラント買付の前日である平成二年一月一八日の夕刻ころ、原告に電話して本件ワラントの購入を勧めた。その際、神田は、原告に対し、「この度、新日鉄の国内ワラントが出ます。ぜひご検討いただきたいので、近いうちに店のほうに来ていただけませんか。」と述べた。これに対し、原告は、「わかった。」と述べ、その日のうちに被告高松支店を訪れた。

神田は、右勧誘の際に原告からワラントとは何かといった質問がなかったことから、原告がワラントについてある程度の知識を有していると考えた。神田は、来店した原告に対し、①ワラントとは何かということと、②どうして新日鉄ワラントを勧めるのかということの二点について説明した。すなわち、まず、①に関しては、ワラントとは新株引受権付社債の新株引受権の部分が証券になったものであること、ワラントを買い付けると将来一定の価格で新株を買い付けることができること、ワラント自体を売買できること、ワラントは株価に連動して価格が変動すること、それゆえ売買のタイミングは株式と同様であること、ワラントは株式よりも価格変動率が高いこと、具体的には株式が一割上がるとワラントは二、三割上昇が期待でき、下落する場合にも同様の割合となること、したがって、リスクもあるが逆に言えば効率良く利益を得ることができること、ワラントには行使期間があり、その期間内でのみ売買と新株引受ができること、期間を過ぎるとワラントの価値がなくなることを説明し、そのうえで権利行使期間と権利行使価格を伝えた。そして、②に関しては、新日鉄の業績が非常に良く、将来株価の上昇が期待できること、国内ワラントの大型発行の第一号で人気があること、以後国内ワラントが発行される度に人気が出ると思われること、投資効率がよいこと、新規発行ゆえ手数料が不要であること、当時新規発行商品が人気を呼んでいることを説明し、以上から短期でも儲かると考えられるし、長期的に見ても損はないのではないか、株価次第ではあるものの、全般的な情勢を考えて有望ではないかと述べて勧めた。

これに対し、原告は、銘柄が新日鉄なら今後株価の上昇が十分期待できる旨述べて買付の意向を示した。

そこで、神田が一〇ワラント程度買い付けると二三九万円ほどになると述べたところ、原告は、自分が運用していた親族名義の三口座の中期国債ファンドの残高を尋ねこれを確認した後、その解約金で本件ワラントを買い付ける旨注文し、右解約は本件ワラントの受渡日である一月二四日にするよう求めた。

神田は、右取引の成立後、原告が高松支店に来店するたびに本件ワラントの価格を伝えていた。本件ワラントの価格は原告の買付後いったん上昇したため、神田は原告に売却の意向を確かめたが、原告は、新日鉄の株価はもう少し上がるだろうから様子を見ると述べて売却しなかった。本件ワラントの価格が下落した後も、原告は、期限までまだまだある、新日鉄の株価はいつまでも下がらないだろうと述べていた。その後、平成二年五月ころ、原告は、被告から送付を受けていた説明書と確認書を持参して被告高松支店に来店し、神田に説明を求め、神田が、規則ができたので説明書を交付して確認書をもらうことになったと説明すると、納得して確認書に署名押印した。

(2) 右のとおり、神田は、原告に対し、勧誘当時の客観的事実に基づいて自己の見解を伝えただけであり、「銘柄が一流であり安全です。」「絶対儲かります。」「元本が保証される安全な社債のようなものです。」「短期間で値上がりします。」などとは述べていないから、その勧誘に何ら違法な点は存しない。しかも、原告は、前記のとおり証券取引のプロというべき人物であり、現にワラントにつき値段の上下があること及び損をするときは短期で大きく損をすることがあることを認識していたのであるから、神田の右勧誘により投資判断を誤らされたということもできない。原告は自らの判断で本件ワラントに投資したものであり、その結果生じた損失については原告自身が責めを負うべきである。

(三) 説明・確認義務違反について

(1) 証券会社の顧客は、受動的に証券会社のもたらす情報を信頼しているわけではなく、証券会社を選択することも、投資商品を決定することも、そもそも投資するか否かについても、他から強制されずに自由に決定できる立場にあり、証券取引に必要な情報も、テレビ、新聞、雑誌、専門誌等のさまざまな手段によって得ることができる。また、顧客が望みさえすれば、証券会社からも必要な情報の提供を得ることができる。したがって、説明義務の有無及び内容につき検討する際に、顧客の自己責任を軽視し、証券会社の優越性のみを強調するのは正当でない。

(2) ワラント取引における一般的説明義務の範囲

ワラント取引は、ワラントに基づき権利行使することを目的とせず、売買差益を得る目的で行われているのがほとんどであり、証券会社側もワラントを短期の売買で利益を上げる商品として販売しているのが実態である。このような実態を踏まえると、ワラント取引において顧客が認識すべき情報とは、①ワラントが新株引受権証券であり権利行使が可能であること、またその売買が可能であること、②ワラントの売買価格は株価に連動するが、その変動の割合は株価の場合とは異なり大きなものであること、③ワラントには権利行使期間があり、その期間を徒過すると価値がなくなること、といったワラントに関する一般的知識及び④当該ワラントの価格動向に関する判断材料、⑤当該ワラントの権利行使期間、についての具体的情報であるというべきである。

したがって、仮に証券会社が信義則上顧客に対して説明義務を負うことがあるとしても、その説明の範囲は右①ないし⑤に限られるというべきである。

(3) 個別的説明義務の程度

投資家は、リスクがあることが明らかなワラントに投資するのであるから、一定の知識ないし情報が与えられた以上、そのリスクの程度等の具体的な点については、自ら積極的に情報を収集してこれを決定すべきであって、(2)の①ないし⑤につき証券会社に説明義務が存するとしても、その程度は詳細かつ専門的な事項にわたるものではなく、顧客において一応の判断が可能な程度に説明があれば、それをもって説明義務は尽くされたというべきである。

原告は、前記のとおり証券取引のプロというべき人物で、理解力、調査能力、判断能力のいずれにおいても優れていたのであるから、本件における被告の具体的説明義務としては、原告が取引の対象をワラントであると認識できる程度のもので足りるというべきである。

(4) 以上の次第で、神田が前記(二)の(1)のとおり詳細な説明を行っていることにより、原告に対する説明義務は尽くされているというべきである。

(四) 虚偽の表示、誤解を生ぜしめる表示について

前記(二)のとおり、神田は、原告に対し、勧誘当時の客観的事実に基づいて自己の見解を伝えただけで、「銘柄が一流であり安全です。」「絶対儲かります。」「元本が保証される安全な社債のようなものです。」「短期間で値上がりします。」などとは述べておらず、原告自身、ワラントにつき値段の上下があること及び損をするときは短期で大きく損をすることがあることを認識していたのであるから、虚偽の表示、誤解を生ぜしめるべき表示に該当する事実は存しない。

三  証拠関係<省略>

第三  争点に対する判断

一  適合性の原則違反の有無

1  前記第二の一の3のとおり、ワラントは、株式や社債等と比較するとハイリスク・ハイリターンの投資対象で、これを購入した投資家が投資した金額全額を失う可能性があるという性質を有する。しかし、ワラントの価格は新株引受権の対象となる株式の価格に連動するものであるから、ワラントの右性質を理解している一般投資家において、ワラントに対する投資判断をすることが、株式に対する投資判断をする場合と比較して格段に困難であるということはできない。また、原告は、流通市場においてワラントの受入態勢が整備されないままワラントの発行が解禁されたから、ワラントは一般投資家に対する適合性を有しない旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲二、一四の4ないし15)によれば、商法改正後、昭和五八年ころから、わが国企業が海外で発行するワラントの価格は急激に増大し、昭和六一年に外貨建てワラントの国内還流が解禁されたのを契機に外貨建てワラントの国内における取引が急速に拡大したこと、平成元年三月ころには、機関投資家のほか、大口の個人投資家もワラントを購入するようになり、同年一一月ころには、一般の個人投資家もワラント市場に多数参入する状況にあって、日経新聞も昭和六三年一〇月ころからユーロドル建てワラントのABCといった解説記事を連載していたことが認められ、これらの事実によれば、少なくとも本件勧誘が行われた当時には、既にわが国の市場において、ワラントは相当程度の周知性を有していたことが窺われる。したがって、一般投資家に対するワラントの購入の勧誘がすべて適合性の原則に違反するという原告の主張は、いずれの点からしても理由がない。

2  もっとも、前記のようなワラントの性質に鑑みると、顧客の投資経験、資力、判断能力等の条件に照らし、顧客にとってワラント取引が明らかに過大な危険を伴うものであるにもかかわらず、証券会社及びその従業員がそういう顧客に対してワラント投資を積極的に勧誘した場合には、その具体的事情いかんによってはその勧誘行為が違法と評価されることもあり得るというべきであるから、これを本件について判断する。

(一) 争いのない前記第二の一の1及び2の事実に証拠(甲H一、乙ル三、四の1及び2、六ないし八、一一、一五、証人神田、原告本人)を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和二八年一二月一四日生の男性で、大学卒業後、昭和五二年四月から昭和五四年三月まで、被告の京都支店及び田辺支店の営業担当従業員として勤務し、その間に証券外務員資格も取得している。

(2) 原告は、昭和五四年三月に被告を退職して高松市に戻り、被告高松支店に自己名義の証券取引口座を開設して証券取引を行うとともに、秀子の委任を受け、同人名義の口座のほか、甥、姪(秀子の孫)である大西恭平、大西紘一郎及び大西由希子名義の口座を用いて秀子の資金を運用し、証券取引を行っている。

(3) 原告は、右退職後、時計、家具等の販売会社やチェーンのアイスクリーム店に勤務していたが、平成六年三月、アイスクリームの製造販売会社を設立して、現在その代表取締役の地位にある。

(4) 原告は、日経新聞の企業の業績、商品等について触れられている記事や株式の売買欄で情報を得て、自己の判断に基づき、株式の売買をしており、株式については神田の勧誘により売買を決定することはなかった。そして、原告は、神田に対し、株のことは自分で決めるから株以外の何か儲かる商品の情報を提供するようにと依頼しており、手数料のかからない新規発行の公募商品等を好む傾向があった。

(5) 原告は、年間三〇九〇円の保管料の負担を好まなかったため、購入した株式は保護預かりとせず、その都度被告高松支店に赴いて証券の受渡しを行っており、神田との商談も店頭で行うことが多かった。

(6) 原告は、本件取引以前に、被告との間で、現物株式、転換社債、投資信託国債、割引債等の取引を行っているが、昭和六二年以降に購入した転換社債については、購入後、神田に対して指値をするなどの方法をとることにより、いずれも一ないし四か月程度の短期間に売却して利鞘を稼いでいる。

(二)  右認定のとおり、原告は、大学卒業後、証券外務員として営業活動を行い、顧客に証券取引を勧める立場にあった人物であって、母親からも資金運用を任されるほどの能力があり、指値をして短期売買で利鞘を稼ぐといった専門的な取引方法をも身につけており、かつ、自ら新聞を講読して情報の収集につとめていたのであるから、このような原告にとってワラント取引の有する危険性が過大なものであったとは認め難い。したがって、神田が原告に対し本件ワラントの購入を勧誘したことが適合性の原則に違反するとはいえない。

二  断定的判断の提供の有無

甲H一号証(原告の訴訟代理人に対する陳述録取書)の記載及び原告本人の供述中には、神田が、本件ワラントについて、原告に対し、「銘柄が一流であり安全です。」「絶対儲かります。」「九分九厘大丈夫です。」「元本が保証される安全な社債のようなものです。」「短期間で値上がりします。」「短期間で一年分の利子程度、けっこうとれます。」などの文言を述べて勧誘を行った、との部分がある。

しかしながら、原告本人の供述中、右の各文言、特に「元本が保証される安全な社債のようなものです。」「銘柄が一流であり安全です。」という文言を聞いたという部分は、供述の内容が次々に変遷したり(「転換社債や割引債のようなもの」と聞いた、との供述から、「いい商品です、いい利回りです、新日鉄だから安全です」と聞いた、などと変遷)、後に供述が撤回されたり(元本保証という言葉は聞いていないとして撤回)していること及び証人神田の供述に照らして、いずれもにわかに信用し難く、また、このことからして、甲H一号証の記載中の当該部分もたやすく採用できず、他に神田が明確に右の各文言を述べたことを認めるに足りる証拠はない。

そして、証人神田及び原告本人の各供述によれば、原告は、神田から本件取引の勧誘を受けた際、神田の説明によって、ワラントは短期間で売買して利益を得ることのできる商品であること、値下がりすることもある商品であること、短期間に利益を上げることができる商品ではあるが、値下がりした場合の損失も大きいことを認識するに至っていたことが認められる。そうすると、仮に神田が原告主張のように「絶対儲かります。」「九分九厘大丈夫です。」「短期間で値上がりします。」「短期間で一年分の利子程度、けっこうとれます。」などの文言を述べていたとしても、原告は、神田の説明全体からワラント取引の危険性、殊に価格変動が激しい商品であるとの点に関して正しく認識するに至っていたのであるから、神田が右の各文言により原告に正しい認識を形成させることを妨げたということはできず、他に神田が原告の正しい認識形成を妨げるような断定的判断を提供したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、断定的判断の提供に関する原告の主張も理由がない。

三  説明・確認義務違反の有無

1  争いのない前記第二の一の4の事実に証拠〔乙ル二、三、四の1及び2、六ないし八、一〇ないし一三、一七、一九の1及び2、二〇、二一の1、二二の1及び3、証人神田、原告本人(後記措信しない部分を除く。)〕を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 神田は、本件ワラント買付の前日である平成二年一月一八日夕刻、原告方に電話をし、新日鉄の国内ワラントが発行される旨及び同ワラントの購入について検討していただきたいので近いうちに店のほうに来てもらいたい旨を伝えたところ、原告が同日中に被告高松支店を訪れたので、原告に対し、一時間程度、本件ワラントについて説明をした。その際、神田は、高松支店に備付けられているコンピューターから打ち出した本件ワラントに関する資料を原告に見せながら説明を行ったが、その資料には本件ワラントの発行年月日、権利行使期間、権利行使価格、額面当たり行使株数、理論価格(パリティ)、プレミアム、購入代金、付与率等の詳細な情報が記載されていた。原告は、神田の右説明により、ワラントが短期間に価格が大きく変動するハイリスク・ハイリターンの商品であることを理解したうえで本件ワラントの購入を決定し、その価格を尋ねた。神田が一〇ワラント程度買い付けると二三九万円ほどになると述べたところ、原告は、自分が秀子の依頼を受けて資金運用を行っていた大西恭平、大西紘一郎及び大西由希子名義の口座の中期国債ファンドの残高を尋ねこれを確認した後、それを解約した資金で本件ワラント(一〇ワラント)を買い付ける旨注文し、右解約は本件ワラントの受渡日である一月二四日にするよう求めた。右商談の間、原告は、「ワラントとは何か。」というような質問は一切しなかった。そのため、神田は、原告がワラントについてある程度の知識を有しているものと考えていた。

(二) 原告が購入した本件ワラントの価格は23.9ポイントであったが、本件ワラントは、公開後の平成二年二月七日に24.5ポイント程度の価格となり、しばらくは募集価格を上回っていたため、神田は原告にその旨伝えたところ、原告は、新日鉄の株は上がるだろうからしばらく様子を見ると述べて本件ワラントを売却しなかった。しかし、その後株価の下落に伴って本件ワラントの価格も下落したため、神田は原告が来店した際にその旨を伝えたが、原告は、新日鉄の株価はいつまでも下がっていないだろうからしばらく様子を見ると述べて本件ワラントを売却せず、神田に対し価格が戻ってきたら連絡するよう指示していた。

(三) 協会は、国内初めての大型ワラントである新日鉄ワラント(本件ワラント)の発行がきっかけとなって、平成二年三月一六日、公正慣習規則第九号の一部を改正し、改正後に販売される国内ワラントについては説明書の交付と確認書の徴求を必要とすることとした。被告は、右改正の趣旨を徹底する目的で、改正以前に取引を行った顧客に対しても説明書を交付して確認書を徴求することとし、被告高松支店は、既にワラント取引のあった顧客をリストアップしたうえ、そのうち電話による確認により郵便による送付を拒絶しなかった顧客に対しては、協会作成の「国内新株引受権証券(国内ワラント)説明書」(乙ル一二)及び確認書(用紙)並びにこれらを送付する趣旨を説明する二種類の文書を郵便で送付することとし、その一環として、右の各文書を同年四月一七日に秀子宛に発送した。

原告は、同年五月ころ、右説明書及び確認書を持参して被告高松支店を訪れ、神田にその趣旨を尋ねた。神田は、規則の改正について説明をし、国内ワラントについても説明書を渡して確認書をいただくことになった旨告げた。原告は、右説明を了承して確認書に秀子名義で署名押印した(乙ル二)。右説明書には、冒頭にワラントは期限付商品であり、権利行使期間が終了した時にその価値を失うという性質を持つ証券であること、ワラント買い付け後、株価が上昇せず、行使価格を上回らないときには新株引受権を行使して利益を得る機会を失うこと、ワラントの価格は株価に連動して変化するが、その変動率は株式に比べて大きくなることなど、国内ワラントの有する危険性をほぼ網羅する内容の注意書きが一見してわかりやすいよう大きな文字で記されているほか、ワラント売買の仕組みについてもわかりやすい説明がなされている。原告は、右確認書に署名した際、本件取引につき何ら不満等を述べなかった。

(四) 神田は、平成四年一一月、被告高松支店から相模原支店に転勤となったが、その数か月前ころ、被告から原告に対して本件ワラントの価格に関する資料が送付された。原告は、右資料を見て、神田に対し、こんなリスク商品を買うつもりではなかった、自分は確定利回り商品以外は買わないのだと主張した。

2  原告本人は、神田は電話で二回勧誘してきたが、その時間は一〇分くらいであり、ワラント債という言葉は聞いたかも知れないが新株引受権という言葉は全く聞いていない、神田は元本が保証される債券のようなものだという説明をしていた、秀子名義の資金運用については確実な商品にしか投資しない方針であったから、勧誘時の説明でワラントがハイリスク商品であると知っていれば投資しなかった、と供述している。しかしながら、割引債等についても利率等を詳しく確認したうえで取引をするほど慎重で、重要な商談を主に被告高松支店の店頭で行う傾向があって、三〇九〇円の保管料を節約するために証券の授受の都度被告高松支店まで赴くことを厭わなかった原告が、わずか一〇分程度の電話による勧誘のみで、わざわざ中期国債ファンドを解約して新商品の取引に応じるのは不自然であり、しかも、元本保証との点について反対尋問で追及された際に原告本人が供述の趣旨をあいまいにしていること、秀子と原告の間で事前に損失補填の約束があったというのであるが、ハイリスクの資金運用を秀子が許さず、原告もそのような運用をしない方針であったのであれば、事前に損失補填約束をする必要はないと思われることなどに照らすと、原告本人の右供述はにわかに措信し難い。

また、原告本人は、確認書に署名した経過につき、説明書と確認書は別々に送られてきたものであり、説明書は確認書よりも六か月から一〇か月後に送付されたものである、確認書は、本件取引の三か月から四か月後に、別の用件で被告高松支店に行った際に、神田から示され、署名をもらい忘れているのでサインするようにと言われて、内容を読まずに署名押印したものである、と供述しているが、乙ル二号証の確認書の本文は「私は、貴社から受領した『国内新株引受権証券取引説明書』及び『外国新株引受権証券取引説明書』の内容を確認し、私の判断と責任において下記の取引を行います。『国内新株引受権証券取引』」という文章のみからなっており、その趣旨が一見して明らかなものであること、原告は過去に証券外務員として稼働していたものであって、信用取引のようにこの種の確認書が必要とされる証券取引を、右確認書を徴求する側の外務員の立場から経験しており、いわゆるめくら判を押すとは考えられないこと、被告は協会の規則改正を受けて国内ワラント取引のある顧客に対し一斉に説明書及び確認書を発送する手続を行っており、その手続に関する書証も完備していることに照らし、原告本人の右供述もたやすく信用できない。

そして、他に右1の認定を左右するに足りる証拠はない。

3  前記のとおり、ワラントはハイリスク・ハイリターンの商品であり、株価の動向によっては顧客が投資した金額全部を失う危険性もあるから、ワラント取引を勧誘するに際し、証券会社の従業員は、信義則上、顧客の能力及び経験に応じた相応な説明をしてそれを理解させるべき注意義務を負うが、右説明義務が信義則上のものである以上、その義務の程度は、当該顧客の年齢、性別、投資経験、理解力、判断力、情報収集能力、外務員と顧客の関係等の個別的事情によってかなりの幅に変動するというべきである。原告は、前記のとおり、証券外務員資格を有していたうえ、長らく証券取引を続けており、神田とは大学の先輩・後輩の関係にあって、神田に対し「株のことは自分で決める。」と言って自らの判断力を披瀝していたもので、神田が本件取引を勧誘した際にも、神田の説明に対してワラントにつき知識がないという素振りを全く見せていない。したがって、このような事情にある原告に対し、神田の側でワラント取引全般について詳細かつ丁寧な説明をすべき義務があるとまではいえず、ワラントが期限付き、かつ、ハイリスク・ハイリターンの商品であることを理解せしめれば足りるというべきである。

そして、前記1で認定したとおり、神田が原告に対する説明の際に用いた資料には、権利行使期間と権利行使価格についての記載があったこと、原告は神田の説明によりワラント取引がハイリスク・ハイリターンなものであることを認識していること、原告は後に被告からワラント取引の危険性についてわかりやすく記載された説明書の交付を受けた際にも本件取引について何らの不満を述べておらず、初めて本件取引についてクレームをつけたのは本件ワラントの価格が大幅に低下したことが判明してからであること、原告は日経新聞の株式欄及び商品等の説明の欄を読んで投資態度を決定していたところ、本件取引以前の日経新聞には、ワラントに関する説明記事等が繰り返し掲載されていることからすれば、原告が本件取引の際に自己の買い付ける商品がワラントであり、それが期限付き、かつ、ハイリスク・ハイリターンのものであることを認識せずに取引をしたと認めることはできず、神田が原告に対してワラント取引の危険性を認識させるに足りる程度の説明をしなかったと認めるに足りる証拠もない。

したがって、説明・確認義務違反に関する原告の主張も理由がない。

四  虚偽の表示、誤解を生ぜしめる表示の有無

原告は、神田が本件取引に際してワラントと他の上場商品との誤認混同を招く表示をしたとするが、その主張内容はほとんど前記二(断定的判断の提供)及び三(説明・確認義務違反)と同じであり、異なる部分は神田が「ワラント債といって転換社債や割引債のようなものである。」と述べたとする部分のみである。右主張に沿う証拠としては原告本人の供述及び甲H一号証(原告の訴訟代理人に対する陳述録取書)の記載のみであるところ、前記二において判断したとおり、右供述及び記載は信用し難い。そして、本件の証拠関係からは、神田が原告に誤認混同を生ぜしめるような説明をし、あるいは必要な説明をしなかったこと、すなわち虚偽の表示、誤解を生ぜしめるべき表示をしたとは認められない。

五  結論

以上の次第で、原告主張の本件勧誘の違法性に関する事実はいずれもこれを認めることができず、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山脇正道 裁判官橋本都月 裁判官佐藤正信)

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